東京高等裁判所 昭和53年(う)2667号 判決
被告人 斉藤昭一
〔抄 録〕
控訴趣意第二点(訴訟手続の法令違反等の主張)について
所論は、要するに原判決は、原判示第二別紙一覧表(二)番号12、13の各横領行為の日時をそれぞれ昭和四六年九月二二日ころ及び同年一〇月四日ころと認定したが、起訴状の記載によれば、その日時はいずれも昭和四六年一一月一〇日ころとされており、日時が一か月以上も相違するのであるから、起訴事実と原判決の認定した事実は別個の事件というべきであって、原判決のように認定するためには、訴因の変更を要するのに、これをしなかった原判決には審判の請求を受けない事件につき審判した訴訟手続の法令違反がある、というのである。
しかしながら、原審記録を調査して検討すると、原判示第二別紙犯罪事実一覧表(二)番号12、13の各横領行為の日時につき、起訴状の記載と原判決認定との間に、所論指摘の相違があることは記録上明らかであるが(関係証拠によれば、右の相違は検察官は、被告人がその領得にかかる金員を経理上仮払金として処理した日時を横領行為の日時として公訴を提起したものであるのに対し、原判決は被告人が実際に該金員を組合から持ち出した日時を横領行為の日時と認定したことによって生じたものであることが認められる)、原判示第二の各横領行為は被告人が組合のため業務上預り保管中の現金を原判示の期間、継続した意思の下に多数回にわたって着服横領したものであるから、右各横領行為は包括して一罪をなすものというべきところ、包括一罪にあっては、そもそもその行為の始期、終期、回数、被害の総額等を全体として包括的に判示すれば足り、必ずしも、個個の行為について個別的に特定することを要しないから、裁判所は、本件のごとく個個の行為の日時等については起訴状の記載に拘束されることなく、証拠にもとづきこれを認定すれば足りるのであって、右のような場合にまで訴訟手続上訴因の変更の手続を経ることを要するものでないから、原判決に所論の誤りがあるとは認められない。論旨は理由がない。
(千葉 永井 中野)